カナダ国境でのlaptop searchについて

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2013年11月にカナダ バンクーバーで行われたIETF 88に参加する時に起きた話なので少し古い情報です。

2013年11月3日にIETF 88に参加するためにカナダのバンクーバー空港で入国後、バゲージクレームエリアでカナダ国境サービス庁による手荷物捜索を受けました。通常手荷物捜索は税関などが非申告の禁輸品の所持を確認するためなどの行うのですが、すべての乗客の荷物を捜索することは難しいため、ランダム(もしくは彼らが疑うに足る事由がある場合)に選択して捜索を行うのですが、私が受けた手荷物捜索では児童ポルノの所持を確認するために所持していたデジタル端末すべてのパスワードを教えてなければならないというものでした。

詳細な経緯は以下の通りです。

手荷物を受け取った後、通関ゲートに向かっていたところ、カナダ国境サービス庁の職員にカナダを訪れた理由を聞かれ、IETFへの参加であることを告げたところ、手荷物の捜索を行うということで、ブースに案内されました。
そこで手荷物の捜索に協力していたところ、デジタル端末の捜索(laptop search)も行うのでこの場で(ちなみにオープンなカウンターで他にも”ランダム”に選ばれたアジア系の若い男性が同じようにデジタル端末の捜索を行われていました)パスワードを口頭で言えと告げられました。
そもそも児童ポルノは禁輸品であり、児童の人権は守られなければならないということは認識していましたが、オープンな場所であることや、通常この手の捜索は捜査令状などが必要なのではないかと思い、拒否することを告げたところ、職員より拒否する権限はないと言われました。
しかしながらオープンな場所で口頭でパスワードを告知することは避けたかったため、文字で書くので代替できないかと交渉したところ、それは認められ、職員が所持していたメモ帳(ちなみにそれには過去に同じように捜索を受けた人のパスワードがいっぱい書いてありました)に書くよう言われました。その後職員は私の所持していたデバイスをすべて持ち、バックオフィスに行きカウンターで待機するよう命じ約30分ほど待機しました。
もちろん私は法で禁じられた画像や動画などは所持していないため、30分ほどした後職員は戻り、私は空港の外に出ることが出来ました。

私はこの捜索にはいくつもの問題があると感じています。

  • 捜索の妥当性
    どのような理由で私が選ばれたのかわかりませんが、数百人の乗客から同じように捜索を受けていたのがアジア人の若い男性のみであったことはたとえランダムだとしてもとても恣意的に感じました。
  • 運用方法について
    BC Civil Liberties Associationによると、捜索では”Electronic Media Search Form”に記入をしなければならいと規定されていますが、実際には口頭申告されたパスワードをメモ帳に書き込むというずさんな方法で捜索が行われました。職員の対応にはプロフェッショナルさを感じることは出来ませんでした。
  • 何を優先すべきか
    児童の人権は優先すべきですが、一方個人のプライバシーも大切です。児童ポルノの捜索だけを行うのであれば、別室にラップトップを持っていくというオペレーションではなく、目の前で捜索することも可能だと思います。別室にラップトップを持っていったということは児童ポルノも関係なくデータはコピーされたと考えざるを得ず、またPRISM問題直後でしたのでバックドアを仕込まれた可能性も否定できませんでした。
    また例えば私が政府関連の仕事に従事していた場合、この捜索の結果機密が他国の政府にわたる可能性もあり、これには外交官特権のみでしか対抗することができません。
    更にはもし私が仮に児童ポルノを所持していたとしたらデータを物理デバイスに入れて国境を横断するなどというわかりやすい行為はしないでしょう。暗号化してどこかのサーバにアップロードするなどすると思います。つまりこのlaptop searchでどれくらい児童ポルノが国内に持ち込まれるのを防げたかについては疑問が残り、それにより侵害される個人のプライバシーの方が大きいのではないかと思います。

法治国家に生きる市民として法律に定められた正当な行為なので従いましたが、残念ながら心地よい対応ではなく、タイミングもあって強い憤りを感じました。

法律の専門家ではありませんので、細かいところは違うかもしれません。
その直後のFacebookポストも参考にリンクしておきます。

[追記]
後日IETF 88のTechnical Plenaryの議事録が公開され、そちらに私の発言が記録されていました。

児童の人権と個人のプライバシーどちらもが尊重される社会が訪れるとよいなと切に願います。

This work is licensed under a Creative Commons Attribution-ShareAlike 4.0 International License.

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